澤上篤人氏に聞く!
日本経済を強くする投資マインド
~長期投資の「本質」~

ある程度の短期スパンで結果を求めがちな我々の投資。しかし、10年後、20年後、またはそれ以上を視野に入れた長期投資の世界もある。その長期投資とはどういうものなのか、また長期投資家に必要な考え方、情報収集方法などはあるのか。「さわかみファンド」でその名を轟かせる日本における長期投資家のパイオニア・澤上篤人氏に長期投資の魅力とその真髄・極意を伺った。

株式会社さわかみホールディングス 代表取締役 澤上篤人

Profile

  • 947年3月28日生まれ。愛知県出身。
    71年から74年までスイス・キャピタル・インターナショナルにてアナリスト兼ファンドアドバイザー、80年から96年までピクテ・ジャパン代表を務める。96年にさわかみ投信顧問(現 さわかみ投信)を設立し、99年には「さわかみファンド」を認定。日本のおける長期運用のパイオニアとして名を馳せる。現職もさわかみ投信会長として長期投資の啓蒙活動を行いながら「カッコ良いお金の使い方」のモデルとなるべく財団活動にも積極的に取り組んでいる。ブログ「澤上篤人の長期投投資家日記」も日々更新中。

長期投資の魅力を教えてください。

私は長期投資に携わって49年、さわかみファンドを設定(1999年8月)して20年になりますが、長期投資の魅力を端的にいえば、「結果が出ている」ということです。実際に、さわかみファンドの設定来のパフォーマンスを見ると、積立投資をしていれば年率5.3%で資産が増加したことになります。(2019年6月末)これは13年ほどで資産が2倍になる計算です。

この間、米国や欧州などは経済規模が約2倍になりましたが、日本は縮んでいます。その厳しい経済環境下において、純資産1,000億円以上のメガファンドでここまでの成績を継続的に出しているものはありません。15年以上の累積の成績で見れば、ダントツの成績です。さらにいえば、さわかみファンド以外に長期間の運用実績を誇れるファンドはほとんどありません。

当社の年に1回の運用報告会には30社以上の企業が参加します。おそらく、日本で唯一の個人の長期投資家との接点の場であることが魅力なのでしょう。10年から20年の時間軸で投資する方たちが集まるユニークな運用報告会です。参加者からは「夢を語ってよ」といっていただきます。実際、運用報告会に参加される方たちは、夢を聞きたい、知りたい方たちなのです。

ところが、運用実績でさわかみファンドを上回るファンドがなく、かつ、個人の長期投資家を中心に支持されているにもかかわらず、当社の純資産額は3,000億円強、口座数は約12万程度にとどまっています。さわかみファンドで証明している長期投資の素晴らしさが、まだ一般には全然知られていないということを痛感しています。

どんな人が「長期投資家」といえるのでしょうか。

3月決算企業であれば、たとえば3月31日の15時ちょうどにたまたま株式の大半を持っている人が大株主になりますが、次の日に売るかもしれません。当然ですが、こういうスタンスの株主を長期投資家とはいいません。

私たち長期投資家の価値は、経営者に「気付き」を与えることにあると思います。
大企業の社長であれば、自社の情報は常に得ています。ただしそれはあくまで自社内から上がってくる情報だけです。それだけで経営判断をして良いのかどうか、経営者は常日頃から悩んでいるのです。まともな経営者で、オープンな人であれば、外部からの情報をどんどん取り入れようとします。その中に我々のような長期投資家アナリストが存在するのです。

レベルの高いアナリストは、研究を重ね、経営者と同じ視座で考え、将来を予測します。そのようになって初めて経営者と対話し、「気付き」を与えることができるようになります。

そのためには、日々社会情勢をとらえ情報収集をすることが大事なのでしょうね。

むしろ、私はあえて社会動向に敏感にならないようにしています。もちろん、新聞などには毎日目を通しますが、短期的な事象に影響されないように気を付けています。

長期投資家には、「大河の滔々たる流れ」を見極める目が必要なのです。
それをつかむヒントは、経済ニュースよりも人々の日常生活にあることが多いです。私はよく人間観察をします。たとえば、飲み屋に行って、ずっとスマホを見ている若者を観察します。みんなとつながったと喜んでいる彼らが「10年後も喜んでいるか」「何をそんなに喜んでいるのか」を考えたりしながら、「世の中がどのように変わっていくのか」についてイマジネーションを働かせてみるのです。

私は「推と論」という言葉をよく使いますが、長期のスパンで世の中の動きを考える際には、「推(イマジネーション)」を働かせると同時に、統計データなどを駆使してしっかり「論拠」を押さえるということが大事です。新聞やテレビのニュースなどがすべてと思わないことです。

投資先企業を検討するときには、まず徹底的にリサーチします。過去10年から20年間の財務を洗い出し、その上で今後10年ぐらいの予想財務諸表も作成します。あらゆる角度から対象会社の先行きを考えるわけです。

最終的には、「自分が社長なら、こういうふうに経営する」という仮説まで立てます。対象会社を観察し続け、どうしてもここがうまくいかない、この辺りにボトルネックがありそうだ、と感じたときには、多様な仮説を立てた上で、その仮説におけるボトルネックを確認したり、経営者に質問したりして解消していきます。

間違っても業績数字を聞いたりはしません。アナリストは御用聞きじゃありませんからね。私たちは、経営者と同じ視座で会社の先行き(将来)を予想するのが仕事です。将来の方向性を自分で考え、自分の言葉で伝えるのが経営者であり、やはり同じ視座で考えるのがアナリストです。

自らが立てた仮説の整合性を確認し、自らが抱いたイメージを検証して投資判断していく。それがアナリストの仕事だと思います。場合によっては、対象会社が置かれた客観的な競争関係も調べます。こうした過程の中で対象会社の価値が見えてきます。そして最後に、その会社は世の中に必要とされているのか、5年先ではどうか、を検証するのです。

まだ誰も見たことのない未来のことを判断しようとするのですから、アバウトな緩さも必要です。イマジネーションをとにかく働かせる。仮説を次から次へと立てていく。ただそうするためには、徹底的に勉強して思考力を磨くことが必要です。物事を決め込むのではなく、読み解いていくのです。結果、10年先の財務諸表が7通りにも8通りにもなっていく。ものすごい力業であり、大変な仕事です。

ゆえに、本格的な長期投資を実践するプレイヤーは珍しい存在です。また、実践できる人もめったにいません。

長期投資家として、澤上さんは、具体的にどんな銘柄を選んでいるのでしょうか。

生活者にとって必要な企業を応援しようという発想で株式を選んでいます。普通の、ありきたりのものが極めて大事ということです。

たとえば、「肉や魚、野菜が食べたい」「暑さや寒さをしのぎたい」などという生活者の欲求は、昔から変わりません。普通の生活はどんなに科学技術が発達しても変わらない。私たちはまず、そのような生活者にとって必要なものを提供している企業に投資します。

世界の人口が1日あたりどのくらいずつ増えているかわかりますか。約17.8万人です。2050年の予想人口97億人に向かってどんどん増え続けています。10日で178万人ですから、福岡市(153.8万人:2018年4月1日現在)を上回る大都市が、10日ごとに世界で生まれていることになります。そのペースで人口が増えれば、食料、エネルギー、工業製品の需要が増えるのは明らかです。人口が想像を絶するスピードで増える流れはどうにも止められません。先ほど言ったように生活者の生活は変わらないですし、欲求も変わらないわけですから、将来的に需要が増大するのは確実ということです。

需要が増えるのは、構造的なインフレ要因であり、すごい投資チャンスなのです。需要に見合うだけの供給ができなければ、物価は上昇します。

一方で、マーケットは常に新しいテーマを探しています。たとえば、最近では仮想通貨やブロックチェーンが話題になりましたが、これらは現時点では生活者にとって必要不可欠なものではなく、「大河の滔々たる流れ」のなかの「さざ波」でしかありません。長期投資には「さざ波」は重要ではないので、そういう銘柄には投資しません。

もうひとつ面白い話をしますと、さわかみ投信は「株式市場が暴落しているとき」ほど株を買います。
これは皆さん意外に思われます。ほとんどの方にはその勇気はありません。ですが考えてみてください。スーパーで安くなっている商品を見つけたら、喜んで買いませんか。同じものなら、ニンジンでも株式でも安く買ったほうが良いに決まっています。株式投資は「安く買って高く売る」ことで利益を出すわけですから、暴落時こそ大きなチャンスなのです。

投資するために企業の価値を測る材料として、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)のいわゆるESG投資という考え方が社会に浸透してきています。澤上さんはこの動きをどう見ていますか。

ひと言でいってしまえば、「何を今さら?」というのが正直な感想です。実は1970年代半ばまでは、10年~20年のタームで投資する長期投資が主流でした。その最たるものが、長い時間をかけてしっかりと財産を増やしていく年金でした。ところが、1970年半ば以降から雲行きが変わってきました。年金制度が整備されていって先進国の年金マネーが世界最大の運用マネーになったことで、運用会社が年金マネーに目を付けたのです。

運用会社同士のマーケティング競争が激しくなると、運用会社はより短期で目に見えるパフォーマンスを出す必要に迫られました。そうこうしているうちに年金資金の運用は、どんどん短期投資になっていきました。90年代には、長期でリスクをとりにいく投資運用(インベストマネジメント)ではなく、ディーリングで値ザヤを稼ぐ資金運用(マネーマネジメント)に主流が変わってしまいました。短期的な成績が出れば何でも良いという状態になってしまったのです。

日本の年金にも同様のことが起こっています。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は米国系の運用会社などに任せ、「今年は何兆円増えた」「減った」と大騒ぎしていますが、経営者も年金も短期投資に毒されているように思います。今期や来期がどうなるかという話題ばかり。しかし、長期投資をずっと続けてきた私からすれば、「投資とは、将来をつくっていくこと」にほかならないわけで、子や孫の世代にどのような社会を残していくかまで考えなければならないと思っています。だからこそ、その大前提として、企業の持つ社会正義や倫理観が私の価値観・生きざまと合わなければ投資対象にはなりません。ずっとそのようにやってきたので、今流行のようになっているESG投資についても、「何を今さら」と感じています。私にとっては当然のことなのです。

最近ではSDGsに取り組む企業も増えていますが、それについてはどう思われますか。

「好きにやったら」というのが感想です。
ただ、日本の企業はあれもこれもと、選択するテーマ(領域)をいたずらに多くしている気がします。

たとえば私のグループには社員が100人いて、100人の社員とその家族の生活を預かっています。同時に、12万人のお客さまの大切な資産と期待もお預かりしているわけです。そして、投資している企業数もたくさんあります。

このような状況にあって、何もかもできるわけがありません。これとこれはやる。できないものはやらない。そういった潔さが必要ではないでしょうか。社員を路頭に迷わせることは絶対しない。無理をして、オーガニックグロース(本格的な成長路線)から逸脱してはいけないと思います。

改めて、長期投資の可能性についてお話しください。

イノベーションは起こります。ただ、大半のイノベーションは、地道な積み上げの結果ではないでしょうか。

国内でも、ちょっと視野を広げればイノベーションの事例は数多くあります。たとえば「素材」。基礎研究分野は30~40年の時間がかかりますが、確かなイノベーションを生んでいます。

ただ、こうした事例を評価する人がいないのが問題です。大半のマーケット参加者が短期志向ですからね。勝負の根幹は、時間軸をどれだけとれるかなのです。

これこそが極めて大事なことなのですが、多くの方が十分に時間軸をとれません。でも、私たちのファンドは時間軸を十分にとります。現在日本の株式市場は610兆円規模ですが、これに対して日本人の個人資産のうち預貯金は890兆円にも上ります。このうちの20~30%が長期投資に流れてくれば、すごいことになります。そのためにも、日本に長期投資の文化を広め、世界では少ないけど、東京株式市場が運用立国、金融立国じゃなくて、長期投資をベースとした国の発展形も可能性として検討すべきだと思います。

資産を長期投資ベースにシフトし、それを大きなムーブメントとして育んでいければ、私たちの明日(未来)は可能性に満ちていると思います。

Profile

  • 947年3月28日生まれ。愛知県出身。
    71年から74年までスイス・キャピタル・インターナショナルにてアナリスト兼ファンドアドバイザー、80年から96年までピクテ・ジャパン代表を務める。96年にさわかみ投信顧問(現 さわかみ投信)を設立し、99年には「さわかみファンド」を認定。日本のおける長期運用のパイオニアとして名を馳せる。現職もさわかみ投信会長として長期投資の啓蒙活動を行いながら「カッコ良いお金の使い方」のモデルとなるべく財団活動にも積極的に取り組んでいる。ブログ「澤上篤人の長期投投資家日記」も日々更新中。