株主提案権の動向と法規制
~スチュワードシップ・コード再改訂版の策定を受けて~

株式会社フィスコ 川名 剛

Profile

川名剛

  • 株式会社フィスコ
    研究開発部長
    シニアストラテジスト
  • 早稲田大学大学院法学研究科修了。金融系シンクタンク、外資系コンサルティングファーム等にて国内外の大手企業に対する経営コンサルティングに従事し、現職。金融庁金融研究センター研究員、文科省科研費研究「日本の年金資金におけるESG投資のあり方についての研究」研究委員、國學院大学非常勤講師等を歴任。
    主な著書に、「サステナブル投資の法的基盤と実践的課題」(編集代表、共著)、「北米および欧州の年金に関する現地調査報告(運用編・制度編)」(共著、年金シニアプラン総合研究機構)、「グローバルに活動する金融機関の法的規律-世界金融危機とシステム上重要な金融機関-」(日本国際経済法学会年報第20号)、Financial Cooperation in Asia and Japanese Law, with Particular Reference to the Development of Asian Bond Markets (International Corporate Rescue, Vol.3)ほか多数。

2019年10月から行われてきた「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」での議論を経て、2020年3月24日、スチュワードシップ・コードの再改訂版が確定した。スチュワードシップ・コードは、2014年2月26日に我が国で初めて策定され、約3年後の2017年5月29日に改訂され、それからさらに約3年経て、今回の再改訂版が策定された。今回の再改訂により、機関投資家の責任ある行動が一層求められ、それを受けて企業側も投資家に対してより透明性、説得性のある説明責任を求められるようになる。このような投資家と企業の対話促進の動きの中で、フィスコでは、2020年2月末から3月上旬にかけて、3回にわたって「株主提案権の動向と法規制」と題するセミナーを開催した。本稿では、今回のスチュワードシップ・コード改訂のうち、企業との対話の直接の相手方となる運用機関に関する部分と、それを受けた本セミナーの講演と議論について概説する。

スチュワードシップ・コードの再改訂

前回の改訂版確定の後、「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」で両コードのさらなる充実に向けた検討が行われてきた。直近の2019年9月24日の意見書では、スチュワードシップ・コードに関して、関係する主体ごとに論点整理が行われ、運用機関については、「議決権行使の理由の説明など対話の活動についての開示が不十分」との指摘がなされた。これを受け、スチュワードシップ・コードの更なる改訂に向けた方向性として以下の2点が明示された。

アセットオーナーについては企業年金のスチュワードシップ活動の範囲の理解が不十分、議決権行使助言会社については助言の策定に必要な体制整備や企業との意見交換が不十分との指摘がなされた。また年金コンサルティング会社などその他機関投資家向けサービス提供者については利益相反管理体制に課題があるとされ、検討会での論点とされた。

  • ①建設的な対話の促進に向け、運用機関に対し、個別の議決権行使における「賛否の理由」や、「企業との対話の活動」に関する説明・情報提供の充実を促す
  • ②ESG要素等を含むサステナビリティに関する対話を行う際は、中長期的な企業価値向上に結び付くものとなるよう意識することを促す

特に①については、「運用機関は議決権行使の結果のみに留まらず、それに至るまでの企業との対話活動についての説明や情報提供を充実させるべき」とか、「利益相反関係にある投資先に賛成の議決権行使をする場合は、その合理的な理由を開示すべきではないか」といった運用機関と企業との個別事情に関しても開示を求める意見が表明された。金融庁による2018年12月と2019年9月の約10か月の議決権行使結果の公表状況によれば、個別理由を開示している運用機関は、20から40に倍増しているが、開示していない機関はなおその倍存在している。また、集計のみの機関やエクスプレイン等に留まる機関も少なくない。

図表1 議決権行使結果の公表状況

(出所)金融庁
注1:2018年12月14時点でスチュワードシップ・コードを受け入れている239機関のウェブサイト等の情報及び2019年9月30日時点でスチュワードシップ・コードを受け入れている269機関のウェブサイト等の情報を基に作成。
注2:議決権行使結果の個別開示には、上場企業等の一部企業のみについて個別開示している運用機関も含めて集計している。

このような状況に対し、検討会では、「議決権行使結果の個別開示は発展途上。賛否の理由の開示は70%が未実施。この実態からして、スチュワードシップ・コードの原則5に照らして改善の余地は大きい。利益相反が懸念される議案や世の中で注目されている議案に対し、賛否の理由を開示することが望ましい」と強く改善を求める意見の一方、「賛否理由の開示は、スチュワードシップ活動の透明性の観点から大変重要だが、具体的な対話内容の開示につながり得る個別詳細な開示を、一律に求めることは、企業との相互信頼の観点で、今後の対話活動に悪影響を及ぼす懸念が強く、慎重に検討すべき」とか、「開示の充実は、各社が創意工夫を重ねて継続的に取組みを強化すべきポイントと考えているが、一方で各社の実力、体力等も踏まえて柔軟なものとなるよう検討されるべき」といった慎重論もみられた。

アセットオーナーへの責任という観点からは、運用機関がその運用実態を可能な限り詳細に開示するのは当然のことと言えるが、それは投資先の企業がどのような戦略をもって事業を遂行しているかの理解と表裏一体であり、それはまた企業側の合理的説明があることが基礎にある。企業側からすれば、不透明性を増す事業環境の中で合理的説明が難しかったり、事業戦略上明示しがたい事情があったりするものと思われるが、上場企業としての説明の合理性、透明性は、インベストメント・チェーンの一体的な流れの中では、一層求められる。

このような議論を経てこの度改訂されたスチュワードシップ・コードに関して、本稿に関係する前述の①に関する部分についてのみ紹介したい。

第1に、運用機関の利益相反に関して(原則2)、運用機関内のガバナンス体制を整備するだけでなく、これを公表すべきであるとした。ここでは個別の利益相反事項を開示すべきとまではされていないが、客観的に利益相反とされる事案が認められた場合、その回避が現有のガバナンス体制で担保できるのかが問われることとなる。運用機関と企業側との信頼関係というのは重要であるが、そこにアセットオーナーの権利を害する不透明な事情があってはならない。この点がより外部から見られるようになってくるのである。

第2に、機関投資家は、議決権の行使と行使結果の公表に関して(原則5)、「特に、外観的に利益相反が疑われる議案や議決権行使の方針に照らして説明を要する判断を行った議案等、投資先企業との建設的な対話に資する観点から重要と判断される議案については、賛否を問わず、その理由を公表すべきである」との文言が追加された。議決権行使の個別理由については、なお必ず公表すべきものではなく、利益相反や議決権行使方針との関係のあるものに関して、重要な議案について、理由を公表すべきとされた。ここには投資先企業との関係や運用機関側のリソースや投資状況も考慮して、急激な公表の負担増を低減させた配慮が見られるが、改訂版としてこの文言自体が新たに追加された意義は大きい。個別理由の公表はなお発展途上にあり、アセットオーナーからの要請や開示を支援する議決権行使助言会社の活用など周辺事情の動きも併せて、今後進展していくものと思われる。

「株主提案権の動向と法規制」セミナーでの議論

運用機関の議決権行使に合理性と透明性が一層求められるようになる中で、株主提案にどのように対応するかがひとつの論点となる。というのは、いわゆるアクティビストの提案に対して、機関投資家が企業側との曖昧な関係性を重視して反対することは容認されなくなりつつあり、合理的な提案であれば賛成する場面も出てくる。今回のセミナーでは、株主提案権の実務の動向と法的対応の観点から、前者については三菱UFJ信託銀行の実務担当の方から、後者についてはOMM法律事務所の大塚和成弁護士に講演頂いた。

第1の「株主提案権の動向」では、「上場企業を取り巻く環境変化」と「株主対応における想定フロー」の観点から説明がなされた。「上場企業を取り巻く環境変化」では、株主提案を受けた社数やアクティビストの大量保有報告書数がここ数年堅調に増加していることから、これらに合理的に対応する必要性が増していることが紹介された。具体的な事例においては、株主提案が採択された例はほとんどないものの、多いものでは40%を超える賛成を得た提案もあった。

「株主対応における想定フロー」では、アクティビストの株付け判明から株主総会までの流れにおいて、どのようなマイルストーンがあり、どのような行動をなすべきかが示された。そこで重要なのは、アクティビストの対応だからといって、また自社には安定株主がいるからといってその提案を軽視せず、早い段階から真摯に向き合うことである。そのために平時から準備しておくこととして、①アクティビスト等に狙われる可能性がないか、そのリスクを分析し対応策を検討すること、②実質ホルダー含めた株主構成を正確に把握し、主要株主とリレーションを構築すること、③アクティビスト対応が必要な場合のアクションプランを検討しておくことが示された。

図表2 株主提案数の推移とアクティビストの大量保有の動向

株主提案の社数と総議案数

(出所)三菱UFJ信託銀行

アクティビストの大量保有報告書の提出状況※1

(出所)三菱UFJ信託銀行
※1:シルチェスター、シンフォニー、ストラテジックキャピタル、ダルトン、ブランデス、エフィッシモ、オアシス、プロスペクト、村上ファンドによる保有先を抽出

第2の「株主提案に対する法的対応」については、現行の会社法における議題提案権(会303、304条)、議案の要領の通知請求権(会305条)、適法になされた株主提案が取り上げられない場合の法的措置について説明がなされた後、弁護士から見た株主提案権行使の実務の流れが概説された。ここでは、大塚弁護士がアクティビスト側の弁護士として対応した実例をベースに時系列で説明された。企業側でなくアクティビスト側の視点で語られたことで、アクティビストがどこを狙い、どのようなタイミングで行動したかが具体的に示されたので、臨場感をもって状況を理解することができた。そこから理解されることは、一アクティビストからの提案であっても軽視せず、まずは真摯に対応することである。アクティビスト側はその提案によって利益を貪欲に追求しており、会社側が軽くあしらうと足元を掬われる恐れもある。また論理的に考えるとアクティビスト側の主張に合理性があると他の機関投資家が評価した場合は、スチュワードシップの観点からアクティビスト側への賛成に回らざるを得ないことも増えてくる。今回の事例では、会社側の軽率な行動がアクティビストのつけ込む隙を与え、結果的にアクティビスト側が勝利する結果となった。

アクティビストの行動は、経済的な利益追求が第一ではあるが、そのための説明の経営的合理性と手続的合法性を隙なく詰めてくる。これに対応するには、平時から手続的瑕疵を生じさせないような法的対応のシミュレーションが不可欠であると言える。

今回のセミナーでは、スチュワードシップ・コードの改訂によって強化される機関投資家の議決権行使結果の公表を念頭に、株主提案権を取り上げたが、参加者からは、アクティビスト対策のほか、コーポレートガバナンス・コード、ESG活動の個人及び機関投資家への周知、株主との建設的な対話のあり方などについて関心が寄せられた。コーポレートガバナンス・コードは、スチュワードシップ・コードの実行と対をなすものであり、先の検討会でもコーポレートガバナンス・コードの速やかな改訂が進言されている。またESG活動の投資家への周知については、今回の検討会でも2つ目の論点として議論され、改訂版の原則7において「サステナビリティの考慮」として追加され、今後の機関投資家との対話の主要論点となってくる。株主との建設的な対話のあり方については、有事への備えを含む平時からの投資家との真摯な向き合い方の抜本的な見直しにつながる。フィスコでは、今後も経営、法律、投資家対話の実行等の具体的視点でセミナーを開催し、実践的なサポートができればと考えている。

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川名剛

  • 株式会社フィスコ
    研究開発部長
    シニアストラテジスト
  • 早稲田大学大学院法学研究科修了。金融系シンクタンク、外資系コンサルティングファーム等にて国内外の大手企業に対する経営コンサルティングに従事し、現職。金融庁金融研究センター研究員、文科省科研費研究「日本の年金資金におけるESG投資のあり方についての研究」研究委員、國學院大学非常勤講師等を歴任。
    主な著書に、「サステナブル投資の法的基盤と実践的課題」(編集代表、共著)、「北米および欧州の年金に関する現地調査報告(運用編・制度編)」(共著、年金シニアプラン総合研究機構)、「グローバルに活動する金融機関の法的規律-世界金融危機とシステム上重要な金融機関-」(日本国際経済法学会年報第20号)、Financial Cooperation in Asia and Japanese Law, with Particular Reference to the Development of Asian Bond Markets (International Corporate Rescue, Vol.3)ほか多数。