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特集 1| ESG投資はブームで終わるのか? 世界のトレンドと金融情報・テクノロジー会社のブルームバーグ、そして創業者マイケル・ブルームバーグによる活動

Contributed by 石橋邦裕

Profile
石橋邦裕
ブルームバーグ L.P.
在日代表

00年入社。12年8月から現職。13年9月以降、営業統括マネージャーとして日本全域の営業責任者。欧州にて営業マネージャー、アジア太平洋地域にてアナリティクス部門マネージャー等を歴任。日本市場に特化した製品・市場開拓、人材育成、顧客サービスなどにて日本独自のビジネス戦略を実行。アジア太平洋地域のDiversity&Inclusionエグゼクティブ・スポンサーとして職場での多様性向上に積極的に取り組んでいる。

安倍政権の成長戦略の重要施策として導入されたコーポレートガバナンスの強化を含むESGについての概念は、2006年にニューヨーク証券取引所で公表された国連の責任投資原則(Principal for Responsible Investment: PRI)により提唱されて以来、徐々に世界の投資家の間で浸透してきました。

大きな弾みとなったのは、2015年に米国最大の公的年金であるカリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)や、世界最大規模の運用会社ブラックロックなどがPRIなどにもとづいた投資の加速を促す声明を発表したこと、そして日本では2015年9月に日本最大のアセットオーナーである年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による PRI への署名です。ブルームバーグも持続的な金融とビジネスを主流にすること、従業員や地域と深く関わること、および二酸化炭素の排出を削減することに積極的に取り組む、PRIへの署名機関です。

同じく2015年の夏には、ゴールドマン・サックスの会長を務めたハンク・ポールソン米元財務長官やブルームバーグの創業者であり大株主・前ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグが米国経済に対する環境面の脅威をまとめた「リスキー・ビジネス」という報告書が大きな反響を呼び、ESG投資の重要性への認知が高まりました。

またブルームバーグは、投資家や企業が意思決定をするためのよりどころとなるESG情報が、比較可能かつ標準化されるよう努めています。これはマイケル・ブルームバーグ氏が議長をつとめるふたつの組織、米国サステナビリティ会計基準審議会 (SASB) と金融安定理事会(FSB)の気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に共通した目標です。どちらも業界主導の取り組みで、サステナビリティと気候変動に関する情報の質と使いやすさの向上を目的としており、昨年はそれぞれ重要な進展がありました。2016年3月、SASBは全米79の業界に対する暫定基準を発表し、同年12月にはタスクフォースが気候変動関連の財務情報開示」に関する報告書案を公表しました。同案では、金融市場のために気候変動によるリスクと機会をより透明化することがうたわれています。TCFDは今年の6月29日に最終レポートを発表しました。

ブルームバーグ提供のESGデータは最大級

1981年の創業以来ブルームバーグがよりどころとしてきたのは、「透明性の高いマーケットは投資家に力を与え、企業を活性化させ、経済成長を支える」という原理です。よい良い情報はよい良い判断を導きます。世界の変化に合わせ、お客さまが変化を理解し対応していくために必要な情報を提供できるよう努めています。

ガバナンスを含む、ブルームバーグが提供するESG(E・環境、S・社会、G・ガバナンス)データは、CSR報告書や年次報告書、企業のホームページなど公的に公開されている情報を対象に収集、そしてデータ内容を弊社で精査した後に提供しています。提供するESGデータ項目は700を超え、世界で1万社を超える企業を網羅しています。

また成長中のグリーンボンド市場におけるデータやその分析も提供しています。Bloomberg New Energy Finance(BNEF)の独立した分析と考察によりお客さまはエネルギー業界の目まぐるしい進化に対応していくことが可能となります。

日本ではTOPIXに上場する企業すべてのESGデータを、世界と同水準で比較可能な共通フォーマットで提供しており、網羅する企業数は日本で最大級です。ガバナンスデータの項目には、累積投票、役員報酬、株主の諸権利、買収防衛策、期差選任取締役会、社外取締役などが含まれています。

https://data.bloomberglp.com/company/sites/28/2017/01/17_0410_Impact-Book_Final.pdf [⇒Page 7]

投資家が知りたいESG情報と実際開示される情報のかい離などについて

ブルームバーグは投資家が必要とするデータや情報を提供することで、成長を遂げてきました。

ブルームバーグでは、投資家が知りたいESG情報と、お客様や従業員、サプライヤーといったマルチステークホルダー向けに作成されたCSRレポートに基づく企業の開示にはギャップがある傾向がある、とみています。

投資家向けに情報を開示する場合であれば、マテリアリティの評価が必要です。自社の業種、ビジネスセグメント、プロダクツとサービスで最もESGリスクが高いものは何か、分析をすることが重要です。

そのマテリアティを設定するにあたり参考になるのが上述したマイケル・ブルームバーグが理事を務める民間非営利団体であるSASBが示している業界ごとの基準ではないでしょうか。

米国では、民間非営利団体である財務会計基準審議会(FASB)が、企業の財務報告の基準を策定していますが、非財務報告においては、SASBが基準を策定しています。SASBは、米国での上場企業が提出を義務付けられている財務書類において、持続可能性情報を開示する際の基準を設定することを目的としています。

ヘルスケア、金融、インフラなど10の業種から細分化された、70を超える分野ごとに指標が設定されており、マテリアリティの特定、そして情報開示の際のガイダンスとなります。

なお、弊社のブルームバーグプロフェッショナルサービスによると、業種などにかかわらず、全体でみた場合、以下の項目は特に投資家によく見られている傾向があります。

  • 独立役員の割合
  • 取締役会の人数
  • 取締役会における女性の割合
  • 経営陣に占める女性の割合
  • 温室効果ガス排出量
  • エネルギー・水の消費量

またブルームバーグでは世界各国の企業によるESG情報の開示度合いをスコア化して可視化しています。ESG情報の開示がどれだけ進んでいるかを示すもので、それぞれの項目内容を評価するものではありませんが、最も人気のある項目のひとつです。

投資家が必要とするデータを提供した例

①投資家の圧力により、本当に見たいと思われているESG項目が開示された事例

投資家が石油・ガス会社、炭鉱会社等に対して、二酸化炭素排出規制ならびに低炭素化への動きに関する資産リスクについての報告書を作成するよう求める動きが活発化しています。

この動きは2012年に英国国教会系投資グループCCLAから始まり、多くの投資家が賛同しました。2015年にはBP社、ロイヤル・ダッチ・シェル社およびスタトイル社、2016年にはアングロ・アメリカン社、リオ・ティント社、Suncor社の株主総会で過半数の賛成を獲得しました。さらに今年5月半ばにはオクシデンタル・ペトロリウム社で重要な進展がありました。

2017年5月12日付のブルームバーグニュースは、米国石油ガス開発会社オクシデンタル・ペトロリウム社の株主が同日、気候変動が事業に及ぼす影響を報告することを求める提案を承認したと報じています。取締役会の反対を覆しての可決は史上初の出来事でした。

同社およびカルパースの広報によると、この決議はカルパース等の投資家グループが主導したもので、テキサス州ヒューストンで行われた株主総会において過半数の票を獲得しました。

同社の筆頭株主であり5.4兆米ドルの資産を運用するブラックロックもこの提案を支持しました。ブラックロックは同社株のうち7.8%を保有しており、株主提案支持の理由については、前年も同様の提案が出され40%の賛成票が集まったにも関わらず、この問題に対する同社の反応が見られないこと、そして気候変動関連の報告体制に改善が見られないことを挙げています。

とはいえ石油・ガスのグローバル企業は気候変動問題により積極的に関わるようになってきています。2015年にはロイヤル・ダッチ・シェル社、BP社、ならびにスタトイル社が気候変動が各社の事業に与える影響について報告書にまとめることを求める株主提案を可決しました。シェブロン社などにも同様の提案が出されましたが、オクシデンタル社の場合は取締役会の反対にも関らず可決されたという点で史上初の事件と言える、とBloomberg IntelligenceアナリストのGregory Eldersは述べています。 なお6月1日には石油大手のエクソン・モービルでも同様に取締役会の反対を覆し、気候変動による影響の報告を求めた株主決議が賛成多数で可決しており、投資家による圧力が高まっていることを示しています。

ブラックロックのような資産運用会社も投資先が気候変動問題にどのように対処しているかの評価を始めています。今年初めにはブラックロックの一部の株主が同社に対し、環境や社会問題に関する投資先の決議案に投票する際の方針を明確にするよう、株主提案を行いました。これを受けて同社は委任投票方針を明確化し、3月に公表しました。

②ブルームバーグによる最近の事例

2016年に弊社はBloomberg Financial Services Gender-Equality Index (BFGEI) を立ち上げました。この指標はブルームバーグのグローバル戦略・開発部門長であり統括責任者であるAngela Sunの主導で作成され、今では当社の既存のESG商品・データの一部を構成しています。定量評価するのが難しいながらも、企業の評価や業績に影響を及ぼすこともあるジェンダーの分野において、客観的かつ標準化されたデータを累計して投資家に提供することを目的としています。

当インデックスでは独自の手法で企業のダイバーシティに対する取り組みを評価しています。具体的にはデータ、方針、商品、地域とのかかわりで、男性社員の育児休暇方針、ジェンダー間での賃金格差、仕事復帰やメンター制度等の調査結果がインデックス全体および企業ごとにブルームバーグプロフェッショナルサービスにて公開されています。

今年1月に発表された2017年インデックスでは、参加企業数が前年の26社から52社に増えています。そして喜ばしいことに日本の大手金融企業4社(大和証券グループ本社、三菱UFJフィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ、MS&AD インシュアランス・グループ・ ホールディングス)がインデックス入りしました。当インデックスに対する反響のほとんどが好意的なものであった理由はデータの透明性によるものと考えます。情報が投資家に公開されると、株主や業界関係者のみならず同業他社からも注目を浴びることになります。彼らはダイバーシティに対する取り組みが形勢を一変させる、あるいは競争優位性を高める要因と考えているのです。

1971年に財務情報に加え、Sの社会に関する項目を世界で最初に投資判断に採用したとされているPax World FundsのJoe Keefe社長兼CEOは、ダイバーシティを受け入れた経営、的確な判断、適切なリスク管理、ひいては株価の上昇は相互に関連していることを示す報告が相次いでいると指摘し、長くは続かないだろうが裁定機会があると述べています。バンクオブアメリカ・メリルリンチ、ゴールドマン・サックスなど、フォーチュン500に名を連ねる企業は女性の職場復帰を促進する画期的な取り組みを始めています。オーストラリアではオーストラリア証券取引所(ASX)が社会的な透明性を重視するようになり、ダイバーシティ情報を開示することを上場の条件として追加しました。

現状ではダイバーシティの標準的な価値が定まっておらず、また様々な文化・伝統で受け入れられる度合いもそれぞれ違います。だからこそBloomberg Gender-Equality Indexはデータ分析の最前線にいられるのだと思います。ダイバーシティは組織のトップが自社の差別化のために標榜すべきものであり、その取り組みの第一歩が情報開示であると考えます。インデックス入りしている企業は、適切なコーポレートガバナンス、離職率の低下、採用希望者の増加などにより事業リスクを最小化するための取り組みを示すことで新規の投資資本を集めることができると思います。

企業は自ら有する事業、従業員、株主、そして環境を保護するために長年重要な役割を果たしてきました。環境運動が人々の気付きから始まったように、男女平等についての議論が職場でのタブーであった時代から、いまや職場改革や業績評価において重要な分野へと劇的な進化を遂げています。

どの企業でも女性の顧客が一定の割合を占めているのは間違いなく、投資家は投資先が方針的にも、実務的にもこのセグメントとつながっていることを確認したいと考えています。

Bloomberg Gender-Equality Indexにより市場や規模に関わらず、すべての企業が自社の方針、活動、開示状況を評価し、より多くの社会的データを開示するようになることを期待しています。開示・分析・評価されるダイバーシティ情報が増えるほど、行動の変化と文化の改革を促す力が強くなります。より安全でクリーンな環境を求める圧力が強まったのと同じことです。
政府や法体系に対する信頼が低下しつつある今日の不透明な世界において、社会は企業がまず変わることを期待しているのではないでしょうか。

https://www.bloomberg.com/company/announcements/bloomberg-launches-financial-services-gender-equality-index/