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特集 1| ESG投資はブームで終わるのか? ESG投資は一過性のブームではない

Contributed by 河口真理子

Profile
河口真理子
大和総研
調査本部 主席研究員

一橋大学大学院修士課程修了後大和証券入社。外国株式、投資情報部を経て大和総研に転籍。アナリスト業務をへてCSR及び社会的責任投資の調査研究に従事。2010年4月より大和証券グループ本社CSR室長~広報部CSR担当部長。2011年7月より大和総研に帰任、2012年4月より調査本部 主席研究員。担当分野はサステナブル投資/ESG投資、CSR/CSV、ソーシャルビジネス、エシカル消費。
国連グローバル・コンパクト・ジャパンネットワーク理事、NPO法人・日本サステナブル投資フォーラム共同代表理事、アナリスト協会検定会員、サステナビリテイ日本フォーラム評議委員、プラン・インターナショナル・ジャパン 評議員、 エシカル推進協議会 理事 早稲田大学非常勤講師(2017.4月〜)
著書「ソーシャルファイナンスの教科書」生産性出版、SRI 「社会的責任投資入門」日本経済新聞社 (共著)、「CSR 企業価値をどう高めるか」日本経済新聞社(共著)など。

近年の統合報告書におけるESG情報の傾向

私は昨年から「WICI(World intellectual Capital Initiative)ジャパン統合報告表彰」の審査員を務めさせていただいていますが、近年統合報告書においてESG情報が重視されつつある、と言われてもESGの具体的な評価となるとまだ始まったばかりという感触です。確かに情報としては増えてきています。報告書にESG情報を載せている事業会社は増えてきているのですが、投資家の方がそれについていけていない。審査委員会での討議をみても、これまでの報告書では最重要視されてきた財務データの開示だとか経営計画だとか、そういったものに対しては皆さん非常に理解力や判断力があるわけです。そこに何やら目新しい情報として、非財務データと称してCO2排出量のデータだとか女性の活躍だとかのデータが載っている、それだけで評価できると考える財務専門家が多いです。ESGに関して数字が出ているだけで満足していてはダメで、その数字を読み解いていかなくてはならないのです。E、S、Gとひとくくりですが莫大な情報を処理しなければいけない、例えばEの環境といえば 温暖化くらいしか思いつかないかもですが、リサイクル、化学物質管理、生物多様性、水資源、鉱物資源、それぞれ奥が深いです。そういった読み解きができない投資家にとってESG投資は一過性のブームに思えるのでしょう。ですがそれは人類社会が今直面している本質的な問題・脅威に全く気付いていないことの証です。言い換えると我々が経済活動を行っている地球自体がおかしくなっている、投資家でそういう自覚がある人は少ない。私は大げさなことを言っているわけではありません。

経済成長は地球を食いつぶすのか

産業革命以降、人類は地球資源を大量消費しながら経済を成長させてきました。世界人口は1970年の37億人から2010年には69億人にまで増えています。1.86倍です。GDPは1970年の15.4兆ドルから2010年には51.7兆ドル、3.35倍と、人口増加率よりもさらに増加率が大きいです。一見、人類全体が豊かになったように見えますが、資源消費量は220億トンから700億トンへ増え、豊かになればなっただけ、資源をどんどん消費しているのが分かります。40年前に比べて1人当たり1.6倍も多く消費しているのですから。

エコロジカル・フットプリント(人間活動が環境に与える負荷を、資源の再生産および廃棄物の浄化に必要な面積として示した数値)という指標があるのですが、1961年の段階では0.7だったものが2016年には1.6にまで上昇しています。つまり現在、地球の生物生産力の1.6倍の資源を我々人類が消費してしまっているのです。危機感を抱かない方がおかしいですね。

問題は「大量消費」だけではない

しかも2010年の資源消費量においては、先進国25トンに対して最貧国は0.1トン。これだけ貧富の差が広がっている状況で、果たして我々は「豊か」だと言えるのでしょうか。

問題は資源の消費というだけに収まりません。世界の森林面積は1990年の4,128百万ヘクタールから2015年には3,999百万ヘクタールまで3.1%減少しました。ピンとこないかも知れませんが、これは人類1人当たりにすると25%の減少です。これがどういうことか。生態系が崩れ、地球全体の気候変動が起きます。熱帯林がなくなれば雨が降らなくなり、砂漠化がすすみ温暖化をさらに加速させる。アマゾンの熱帯雨林はすでに2割が破壊され、このままだと南部東部アマゾンはサバンナになってしまうかも知れないと言われています。

温暖化は現在進行形

現実に世界中で異常気象が起きていますよね。カリフォルニアで6年間も干ばつが続いた一方で、今年、中国の中南部では大洪水が起きています。日本の夏も大雨や猛暑の繰り返しです。これはここ数年だけ見られる一時的な話ではなく、従来からいわれてきた温暖化の帰結と考えられます。1990年に発行されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第1次評価報告書には既に「直ちに温室効果ガスを6割削減しなければならない」と書かれています。今から27年前の話です。それをうけて京都議定書が締結されましたが、効力は微々たるものでその結果、CO2は増え続け、地球の平均地上気温は1880年から2012年までの132年間に0.85℃上昇してしまった。

2015年のパリ協定では、「産業革命以前からの平均気温の上昇を2℃未満に抑える」としています。132年で0.85℃だったらまだ大丈夫じゃないか。そうじゃありません。2013年のIPCC第5次評価報告書によれば、最も楽観的なRCP2.6シナリオでも2100年までに0.3℃、悲観的なRCP8.5シナリオだと4.8℃の上昇が予想されているのです。環境省が2014年に発表した予測によれば、2100年までに日本の気温は1.1℃から4.4℃上昇するというデータが出ています。すると最悪の場合、札幌の真夏日が現在の東京並みとなり、東京が現在の那覇並みとなります。那覇は年間の半分が真夏日ということになります。つまりこれはゲリラ豪雨が降る、干ばつが起こる、これまでなかった地域に大洪水が起こるということ。昨年北海道でジャガイモが大不作でポテトチップが減産されたたことは記憶に新しいですね。ジャガイモだけでも大変なのに、小麦やトウモロコシでこういうことが世界規模で起こるかもしれない。これらはすべて人間が有効な対策をとらずに温暖化を促進し、また鉱物や生物などの地球資源を消費し自然を破壊続けてきたことへのツケなわけです。

そういう地球が置かれている状況へ目を向けずに、ひたすら財務の世界だけをみて来期の収益やせいぜい3年間の中期計画を判断材料にした短期の投資にどのくらいの価値があるのでしょうか。

国も動き始めている

今世界に目を向けると、 こうした経済の在り方を変革しようとするパラダイムシフトが起きていいます。具体的には2015年9月の国連総会で我々の世界を変革するための17の目標としてSDGs(持続可能な開発目標)が採択され、日本政府もそれを受託しました。そしてSDGsを達成するその方策での金融サイドの取り組みとして、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がPRI(責任投資原則)に署名しました。これは大きなことで、GPIFがESG投資にコミットしている以上、多くの運用会社もESG情報に疎いままではいられないわけです。実際に 運用会社のマンデートにESG評価をいれたりESG指数を採用するなど、ブームだとかそんなレベルの話ではなく、これはもう構造的な変化をもたらし始めています。

事業会社の意識の方が進んでいる

資源小国の日本は、足りない資源を外国からの輸入に頼っています。日本人や日本企業の責任は国内だけにとどまっていないことの証です。エネルギーだけの話ではなく、食糧自給率にしてもそうですし、資材に関してもそうです。例えば日本は先進国の中でスウェーデン、フィンランドに次いで森林被覆率が大きい(弱)国なのに、木材自給率はたったの3割程度にとどまっています。森林におおわれている国が、もっと森の少ない国から木を買っている。また熱帯林破壊の元凶とされるパーム油も大量に購入している。パーム油の輸出国のマレーシアやインドネシアでは、パームオイルを大量生産するために熱帯雨林を焼き払ってプランテーションをつくっているのです。昨年のPRIの総会はシンガポールで開催されましたが、サイドイベントの熱帯林破壊の現場視察ツアーに多くの投資家が参加し、会議では投資家がどうやって森林破壊を止められるか、が重要なテーマでした。そして当然、地球を破壊して商売するのではなく、ステナビリティに目を向けようとしている企業がここ数年増えつつあります。

例えばトヨタ自動車株式会社は「トヨタ環境チャレンジ2050」を掲げ、2050年までに3つの事業活動でCO2排出量をゼロにする取り組みや、循環型社会の構築など環境問題に対する同社の取り組みを発表しています。

またキリンホールディングス株式会社は、長期経営構想「新KV2021(新キリン・グループ・ビジョン2021)」を策定し、事業活動において経済的価値の創造と社会的価値の創造を両立するものとして取り組む姿勢を表明しています。

この他にも、株式会社日立製作所の「Hitachi Social Innovation」、富士通株式会社の「Digital Co-creation」など、CSV(共有価値の創造)に向けた取り組みをきちんと事業戦略として語れる企業はどんどん増えています。生態系や地域のサステナビリティと事業活動を両立させていく取り組みです。

投資家こそ意識変革を

これまでにも、「CSR活動」という括りで環境保護活動や社会貢献に取り組む事業会社は多くありました。ただそれらはメインの事業活動とは別のものとして扱われ、お飾り的な評価でした。ですが現在ではこれこそ事業会社にとってのメインビジネスになりつつあります。

世界に目を向ければ、「RE100(Renewable Energy100)」という、100%再生可能エネルギーだけを利用して事業を行うことをコミットするイニシアティブがあります。世界の時価総額ベスト3であるアップル、グーグル、マイクロソフトを筆頭に、世界最大の雇用を持つウォルマートなど現在102社が加盟しています。これに加盟している日本企業は今のところ株式会社リコーだけですが、これだけの世界的大企業、それも情報・通信や金融・保険、不動産、メーカー、サプライヤーなどあらゆる業種の企業が、長期的な展望のもと持続可能な循環経済を目指しているのです。例えばアップルは世界のサプライヤーに対して再生可能ネエルギーでの生産を求め、イビデンがそれに応えており、こうした流れは決して一時的なブームなどというものではありません。

現在の地球環境を直視できる人であれば、経済活動・投資におけるサステナビリティの促進は人類にとっての急務であり既にグローバルトレンドであることが分かるはずです。投資家も事業会社に後れをとらないよう意識変革をしていくべきであり、ESG投資はブームでは終わるはずがないと強く思います。